なぜ薬局でもらう薬の数は増えて行く事が多いのか? その背景にある“現場の事情”とは

40代、50代、60代の皆様は、親御さんの薬の袋を見て、「あれ、また増えたな」と感じたことはあっても、「最近、薬が減ったな」と思う場面は、意外と少ないかもしれません。
薬は、増えるときはスムーズなのに、いざ減らそうとすると急にハードルが高くなる──。
その裏には、診察室や薬局の現場ならではの“しくみ”がいくつも重なっています。
今回は、「薬は増えやすいけれど、減りにくい」と感じられる背景にある、現場の事情をできるだけ生活者の言葉で一緒にほどいてみます。
これは、これから続くシリーズ全体の入り口になる話です。
目次
- 1. 診察室では「まず症状を抑える」ほうが分かりやすい
- 2. 減らすには、「悪化しないかを見る時間」と「説明」が必要になる
- 3. 「変なことが起きたら誰の責任か?」という見えないブレーキ
【今回の話の要点】

1. 診察室では「まず症状を抑える」ほうが分かりやすい
医師は短い診察時間の中で、多くの患者の話を聞き、検査結果を確認し、次の一手を決めていきます。
その場で見えているのは、「いま、どんな症状で困っているか」と「検査の数字がどうか」という、限られた情報です。
そのとき、次の二つを比べると、どちらがとりあえず選ばれやすいでしょうか。
- 1:薬を足して、症状がどう変わるかを見る
- 2:薬を減らして、悪くならないかを慎重に観察する
実際の現場では、「いま目の前で困っている症状を、とりあえず抑える」ほうが選ばれやすくなります。(最後に書きますが、患者さん側がよく勉強していたり、質問してくれるケースは医師も情報が多く収集できるので全く逆になるケースがあります)
患者側も、「何もしてもらえなかった」より、「薬を出してもらった」ほうが安心しやすい面があり、結果として“足すほうがラク”な流れができやすいのです。
2. 減らすには、「悪化しないかを見る時間」と「説明」が必要になる
薬を減らすときは、足すとき以上に、慎重さが求められます。
- 減らしたあと、症状がぶり返さないか
- もし悪化した場合、どこまでを“想定内”と考えるか
- 患者や家族に、「こういう場合は早めに受診してください」と前もって説明しておくか
こうしたことを話し合うには、どうしても時間がかかります。
忙しい外来では、「次回もう少し様子を見ましょう」と先送りになりやすく、そのあいだに薬は“現状維持”で続いていく──そんな構造になりがちです。
3. 「変なことが起きたら誰の責任か?」という見えないブレーキ
もう一つ、目には見えませんが大きいのが、「責任」の問題です。
- 薬を足して様子を見る:
効かなかった場合は、別の薬を足す・変えるという選択肢が残る。 - 薬を減らして様子を見る:
減らしたあとに大きく悪くなったら、「減らしたせいではないか」と感じやすい。
医師に限らず、人は「何かを“やめて”悪くなったとき」のほうが、自分を責めやすいものです。
また、当然の事ながら医師は特定の患者さんと24時間行動を共にする事はありません。
そのため、「本当は減らせる可能性はありそうだな」と感じていても、
- 高齢である
- 持病が多い
- 一度大きな病気をしている
といった条件が重なるほど、「無理に変えて悪くなるリスクを回避する」というブレーキがかかりやすくなります。
この第1回で伝えたかったのは、
「薬が増えやすく、減りにくい」のは、誰か一人のせいではなく、
- 外来の時間の短さ
- 目の前の症状を早く楽にしたい気持ち
- 減らして悪くなったときの不安
といった要素が積み重なった“しくみ”だということです。
「薬のせいか分からないんですが……」
「この薬が増えた頃から、○○が気になるようになりました。」
「減らせる薬があるかどうかも含めて、一度全体を見てもらえますか。」
といった一言が、「増やすのはラクだけれど、そのままになりがちな薬」を見直しのテーブルに乗せるための、小さなきっかけになります。
このシリーズ16では、「なぜ薬が増えやすく、減りにくいのか」という“しくみ”を、全10回(予定)でたどっていきます。
あわせて、「親の薬と医療の『質問ノート』」マガジンでは、
・薬が増えたときに、医師や薬剤師に聞いておきたい質問
・かかりつけ薬剤師への相談の始め方
なども、具体的な言葉でまとめています。
次回は、親の世代を例に、「診療科が増えると、薬も一つずつ足されていく」というしくみを、もう少し具体的に見ていきます。
